南南東
2016年8月、表参道画廊にて、芦田みゆきの写真展「南南東」が開催された。
〈速度〉としての写真を大事にする芦田は、遠いところを走り抜けようとする風のような、幻のような〈赤〉を追い、大島を訪れた。写真展は、芦田が自身の詩の言葉とともに〈赤〉に近づこうとした試みの記録である。
この写真集は、写真展の再現であるだけでなく、〈赤〉への接近を追体験するための空間として作られた。
島へ向かうように箱を手にとり、特別な場所に上陸するように箱を開く。透明なフィルムは風のように言葉を浮かびあがらせ、和紙に印された写真の風景を移動していく。広がる風景を味わうように1枚ずつ手にとり、重なりあう風景をめくりながら写真の奥へ奥へと入り込んでいけば、島を去るように箱を閉じるとき、「南南東」の記憶が、見つけ出した〈赤〉が、あなただけの体験として、色濃く残っていることだろう。